代表的な臨床倫理問題への対応方針
有益な治療を拒否する患者への対応
医師は治療によって生じる負担と利益を明確に提示します。手術・検査の危険性や治療の副作用が長期に生存の可能性や症状の改善に見合うかを決定するのは患者様本人であり、望まない治療を拒否できる権利は患者様に保障されています。
治療拒否を尊重
患者様の自己決定権を尊重します。治療の強要は認められません。(但し、輸血療法の拒否については下記参照)
治療拒否の制限
感染症法に基づき新感染症第一類、第二類感染症においては、治療拒否は制限されます。
輸血療法を拒否する患者への対応
信教上の理由などで輸血療法を拒否する患者様であることが判明した場合、患者様及び患者様のご家族に対して検査法・治療法を含む診療内容、特に輸血療法の副作用を十分に説明し、救急処置としての輸血療法の必要性に理解を求めます。
同意を得られた場合には、通常の診察を実施します。
輸血療法なしでの診療が不可能あるいは輸血療法が必要となる可能性が高く、十分な説明をしても同意が得られない場合には、当院では診療を引き受けられない旨を告げます。
自己判断が不能又は困難な患者様の意思決定
救急受診などの緊急時に意識障害等で患者様本人の意思が確認できない場合には、
①ご家族などの代理人のかたが代諾可能な場合には代理人のかたからの同意を得る。
②同意が得られない、あるいはご家族などの代理人のかたがいない場合には、医師法、医療法の理念に基づき輸血療法を含む必要と考えられる治療を行う。
この方針を院内に明確に掲示します。この掲示には、輸血療法を受けるうえでの患者様の意見を求めていることを示します。
DNAR(Do Not Attempt Resuscitation、蘇生不要)指示について
CPR(Cardiopulmonary Resuscitation,心肺蘇生術)は心停止に陥ったすべての患者様に行われる救急処置です。しかし、がん末期など重篤な疾患様の場合、CPR は臨終を先延ばしにしているだけのことが多く、また、見せかけだけのCPRはご家族に対する欺瞞にもなり、何よりも患者様が他人のために利用されてはなりません。CPRの有効性、DNAR指示の適切性を患者様や代理人のかたと話し合い、倫理的側面を考慮し、症例ごとに適切性を検討します。
CPRの有効性
多くの臨床の場でCPRの効果は限られていることを、患者様または代理人のかたにご理解いただきます。CPRが一般病棟で試みられたとき、回復し自宅復帰できる患者様は14%です。転移性がん、敗血症、血清クレアチニン高値の患者様が無事に退院することは非常にまれです。CPRによって生き延びた患者様に重度の脳神経障害が発生することがあります。CPR中に肋骨や胸骨の骨折は30%にみられます。
DNARは「すべての治療を行わない」を意味するものではなく、「心停止後のCPRだけを実施しない指示」といえます。従って、DNAR指示があったとしても、抗生物質治療、輸血療法、透析治療等は必要に応じて提供されます。
DNAR指示の適切性
患者様及び代理人のかたの意思を尊重します。
医療従事者は自分自身の経験と根拠に裏付けられた基準を持ち、病状説明のなかで、患者様や患者様のご家族とDNAR指示について話し合いをします。医療従事者の思いや信念をも情報の一部として参考にして、患者様が自己決定します。
患者様の意思を確認し、CPRが医学的適応をもたないとき、DNAR指示を下す最終的な決定書は医師です。ただし、担当医一人で決定するのではなく、指導医などを含む複数の医療従事者と協議して決定します。
患者様の意思を確認できない場合、不可逆的昏睡状態の場合や患者様が「家族と相談して決めてください」という場合は、患者様のご家族と医療従事者の話し合いで決めますが、医師は患者様本人の利益や希望を最優先し、倫理面に充分に配慮します。
連絡ミスを防ぐため、関係する医療スタッフ全体で検討し、診療録に記載し、患者様または代理人のかたより同意文書をとります。特に当直者などへ連絡ミスのないよう必ず記載します。
DNAR指示の見直しは、少なくとも1週間ごと、或いは患者様の状態が変わった際には、指示を見直し再度妥当性を検討し同意をとります。
末期患者様における延命処置の差し控えと中止
回復の見込みがなく死期の迫っている患者様では、単なる延命のための治療は無意味だけでなく、時には患者様の尊厳を毀損するとして中止するとの考えが強くなってきています。しかし、治療行為の差し控えや中止は患者様の死に直接つながるものであり、慎重に判断すべきであり、特に患者様の意思を尊重することは最も重要です。薬物療法、化学療法、人工透析、輸血、栄養、水分補給などの措置が判断対象となります。治療行為の差し控えや中止の要件には以下があります。
- 患者様が治療不可能な病気に冒され、回復の見込みもなく死が避けられない末期状態にある。ただし、回復不能、死期が迫っているという判断は主治医一人ではなく、指導医などのしかるべき医師に相談し判断する。
- 医療行為の差し控えや中止を求める患者様の意思表示がその時点で存在する。あるいは患者様の口答による意思表示のほかに、患者様が正確に判断できない状態では、患者様の事前の文章による意思表示(リビング・ウィル、事前指示)を確認する。
臓器移植に関する倫理
臓器移植の実施又は協力における倫理として、下記の法令およびガイドラインを遵守します。
当院の判断は、たとえ提供者・ご家族の希望があったとしても、下記の法令及びガイドラインを逸脱するものではありません。
「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針の制定について(平成9年10月8日 健医発第1329号)」
「法的脳死判定マニュアル(社団法人日本臓器移植ネットワーク)」
臨床研究に関する倫理
臨床研究の実施における倫理として、下記の法令およびガイドラインを遵守します。