もの忘れの違いについて

 初めのうちは、「認知症による物忘れ」と「老化による物忘れ」との区別がつきにくいですが、次第にはっきりしてきます。認知症の種類により出現する症状は様々ですが、大まかな目安としてまとめると以下の様になります。

認知症による物忘れ 老化による物忘れ
体験そのものを忘れる 体験の一部を忘れる
忘れたことが分からない 忘れたことを自覚している
ヒントを与えても思い出せない ヒントを与えると思い出せる
食べたことを忘れる 何を食べたか忘れる
約束したこと自体を忘れる 約束をうっかり忘れる
買い物に行ったことを忘れ、また買い物へ行く 買い物へ行ったときに、うっかり買い忘れる
日付や曜日、場所などが分からなくなる 日付や曜日、場所などを間違える
間違いを指摘すると、辻褄を合わせた変な作り話をする 間違いを指摘しても、作り話はせずに謝る
捜し物は誰かに盗られたと思う 捜し物は努力して見つけようとする

認知症を早期発見するために

以下のような言動を見るようになったら、早めの受診をお勧めします。

もの忘れが酷くなった

  • 今切ったばかりの電話の相手を忘れる
  • 同じ事を何度も言う、聞いてくる、する
  • しまい忘れ・置き忘れが増え、いつも捜し物をしている
  • 貴重品や自分の物品が誰かに盗まれたという
  • 薬が余るようになってきた

判断・理解力が衰える

  • 家事や仕事などの失敗が多くなった
  • 新しい事を覚えられない、覚えようとしない
  • 話のつじつまが合わない
  • テレビ番組や会話などを理解できなくなった

時間・場所がわからない

  • 約束の日時や場所を間違えるようになった
  • 慣れた道や自宅近所で道に迷った

人柄が変わった

  • 些細なことでも怒りっぽくなった
  • ペットや家族へ暴力をふるうようになった
  • 周りへの気遣いがなくなり頑固になった
  • 自分の失敗を人のせいにする
  • 「このごろ様子がおかしい」と周囲から言われた

不安感が強い

  • ひとりになると怖がったり寂しがったりする
  • 外出時、何度も持ち物を確認する
  • 「頭が変になった」と本人が訴える

意欲がなくなる

  • 下着を替えずに、身だしなみに構わなくなった
  • お風呂に入ることを拒否するようになった
  • 趣味や好きなことに興味を示さなくなった
  • 何をするにも億劫がり嫌がる
  • 閉じこもりがちになり、外出することや人と会うことを嫌がる

認知症の種類について

 一言で「認知症」といっても、複数存在します。認知症症状が出現する代表的な病気には「アルツハイマー型認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」と「脳血管性認知症」「正常圧水頭症」「慢性硬膜下血腫」「甲状腺機能低下症」があり、それぞれ症状と治療方法が異なります。

前者の3つは、根本的な治療が困難で進行を遅らせる対処療法を行います。後者の4つは予防または治療が可能な場合があります。

日本では「アルツハイマー型認知症」と「脳血管性認知症」の混合型が多いと言われており、次に「アルツハイマー型認知症」「脳血管性認知症」の単独型、「レビー小体型認知症」となっています。

根本的治療が難しく、対処療法となる認知症

アルツハイマー型認知症

異常なタンパク質が脳の神経細胞に蓄積して、神経細胞を破壊し脳の萎縮が進行する。記憶障害が徐々に進行し、日付や曜日が分からなくなり、仕事の要領が悪くなる。
ある日突然症状が出現するのでは無く、徐々に症状が出現する。

レビー小体型認知症

レビー小体という異常タンパク質が脳の神経細胞に蓄積する。実際には存在しないものや人物が見えるという幻覚(幻視)・人物誤認などの認知障害と、動作が鈍い・転びやすいなどの運動障害の両方が症状として出現する。
調子の良いときと悪いときの差が大きい。

前頭側頭型認知症(ピック病)

前頭葉と側頭葉の萎縮が徐々に進行し、特徴として人格が急変する事が上げられる。窃盗や人前での破廉恥行為など本来ならば罪悪感や羞恥心を示す行為を平気に行うようになったり、物事に無頓着・人から注意されても聞く耳を持たないなど、自分勝手・わがままになる。同じ食事しか食べない・決まった同じ道しか通らないなど、同じ行為・行動を繰り返す「常同行動」も出現する。
若年(65歳以下)で発症することが多く、病気が進行してもバスや電車に乗って迷子になることは少ない。

治療・予防可能な場合のある認知症

脳血管性認知症

脳梗塞・脳出血・くも膜下出血などの脳卒中が原因で起こる認知症。脳卒中後遺症のマヒや言語障害を呈することが多い。
脳卒中を繰り返すとそのたびに悪化するが、再発予防により進行を抑制できる。

正常圧水頭症

脳脊髄液が脳室にたまり、脳室が拡大して周囲の脳が圧迫されて起こる病気。歩行障害や尿失禁が見られる。
手術により症状を改善が期待できる。

慢性硬膜下血腫

頭を打った後などに、頭蓋骨と脳の間に血の塊が生じて、脳が圧迫されて起こる病気。頭を打ってから暫くして(3週間~3ヶ月程度経過後)症状が出ることが多い。
手術により症状を改善が期待できる。

甲状腺機能低下症

新陳代謝を高める作用のある甲状腺ホルモンの分泌量が不足して、からだの活動力が低下する病気。居眠り、記憶障害などが出現する。
甲状腺ホルモンの補充で改善が期待できる。